STAFF: 2010年10月アーカイブ

こんにちは、二見事務所の山下です。
久しぶりのエントリーです。

最初に言っておきますが、今日のブログも長いです。
ひとつ前のエントリーが、岩村事務所の井上君の、
『第一子 御生誕』
に関するエントリーです。
可愛い赤ちゃんの画像つきですので、まだ見ていない方は、
是非とも、そちらを先に見てくださいね!

さて、本題。
公益法人のお客様について、移行申請に向けての(或いは申請書作成そのものの)
具体的な作業が、この数週間、とても多くなっています。
これまでは申請に向けての事前準備的な相談が多かったのですが、
申請期限まで約3年となり、皆さん本腰で作業に取り組み始めています。
当事務所でも近々、移行認定第2号を予定しています。

しかしながら全国的に見て、まだまだ申請が少ないのが実情です。
そんな中、内閣府は色々な手を使って早期申請を訴えています。

以前にも、「蓮舫大臣メッセージ」と題して早期申請を訴えていたことを紹介しました。
これに加えて、「内閣府では『柔軟かつ迅速な審査』に取り組んでいます」と題して、
次のような紹介をしています。

『公益認定等委員会では、各法人の活動実態を踏まえながら、
それぞれの創意工夫や自主性をできる限り尊重し、
「暖かく」審査に臨んでいます
内閣府では、申請受付後、各法人と連絡を取りながら、
申請書類で説明された事業内容や財務内容について確認を行ないます。
確認する項目については、委員会の委員と相談しながら、
審査に関わる本質的なものを中心とし、
メリハリのあるスピーディーな審査を進めることができると考えています』


う~ん・・・、「暖かい審査」、「スピーディーな審査」・・・。
なんとなく、消費者金融の宣伝文句のような雰囲気が・・・。
いやいや、でも良いんですよ。
移行申請に対して「暖かく」「スピーディー」に。
実務に関わる人間としては、ありがたい限りです。

また『特定の日に移行登記を希望される法人の皆様へ』と題し、
次のようなことを記載しています。

『内閣府では、審査が終了し公益認定等委員会から答申が行われた際に、
法人の皆様に希望する登記の日がある場合には、その希望日をお聞きし、
認定・認可日を調整することでご希望に添えるよう対応させていただきます
ので、
準備ができましたら早めの申請をお勧めします。
例えば平成23年4月1日付けの登記を希望される場合には、
早期に答申がされても、3月下旬に認定等することで対応していきます。』

これは、認定認可されたら2週間以内に登記しなければならなく、
よほど計算して、かつ運が良くないと、
会計期間を2つに分けなければならないことへの、対策です。
(会計期間が分かれると、当然1年に2回分の決算や総会決議が必要です)

会計期間が分かれることは、法人にとっては大きな負担になります。
そこで、法人によっては申請時期を調整して会計年度に合わせて移行しようとします。
そうなると申請書が出来ていても、申請そのものは遅らせる・・・。
遅らせても、必ずしも思い通りになるとは限らない・・・。
そこで内閣府は、
申請が早くても、会計期間を分けなくて良いようにしてあげるよ!
と言っているのです。

「これって、これまでの行政では考えられないサービスでは?」
と、一瞬思ってしまいました。画期的です。
でも改めて考えると、申請が遅れて且つ集中すると困るのは行政。
結局は自分達のため・・・?
いやいや、でも良いんですよ。
事業年度の調整を気にするお客様は、確かに存在します。
実務に関わる人間としては、ありがたい限りです。

そんなこんなで、内閣府は毎週多くの認定に関する答申を公表しています。
10月25日には、認定・認可併せて16件もの答申が発表されました。
その中で2件の認定に、「アレ?」と個人的には首を傾げるようなものがありました。

まず一つ目は、「社団法人日本グラウンド・ゴルフ協会(敬称略)」。
「グラウンド・ゴルフ」って何?
私は、親の代からの由緒正しい、生粋のプロレタリアート。
ゴルフというブルジョアジーな人々のスポーツに、全く知識も経験も有りません。

早速、ウェブで検索。
・・・なるほど、ゲートボールみたいなもののようです。
だったら、そう言ってくれれば良いのに。
でも、公益なの?と思い、公益目的事業をチェック。

『グラウンド・ゴルフの普及振興のため、用具・コースの認定、指導者の育成、
大会の実施などを行う事業』

・・・う~ん、やっぱり分からん。

もう一つは、「社団法人全日本アーチェリー連盟(敬称略)」。
代表者の氏名を見てビックリ!
「安部 晋三(もちろん、敬称は省略してるだけですよ!)」
元総理大臣じゃないっすか。マジっすか。
でも、だからって公益?
公益目的事業をチェック。

『アーチェリー競技力向上・普及及びこれに付随する事業』

・・・う~ん、やっぱり分からん。

いやいや、2つの社団法人様の事業内容や公益性に対して、
ケチを付ける気は、微塵もありません。
ただ、これまで見てきた『公益法人認定法』や『認定申請の手引き』、
『FAQ』から判断すると、本当に認定されたの?と思ってしまいます。

いやいや、でも良いんですよ。
公益性って言うものが、私が思っているより範囲が広いってことです。
実務に関わる人間としては、ありがたい限りです。

認定したのが『内閣府』です。
まさしく、認定のスタンダードが示されていると言って良いでしょう。
私の考える公益性と、内閣府が考える公益性。
どれくらい違うのか。何が違うのか。
確認しておかなければ、なりません。

でないと、お客様にご迷惑をかけてしまいます。

情報公開制度を利用し、両社団様の認定申請書を入手
し、
私どものお客さんの認定申請に役立てたいと思います!

最後に。
当事務所では、特例民法法人の皆様の移行申請に携わっています。
申請作業でお困りに法人様、ぜひお気軽にご相談ください。
ご連絡、お待ちしております。



医療機関の仕入税額控除

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こんにちは、二見事務所の山下です。
今回は、いつもにも増して長文になります・・・。

先月29日、兵庫県内の4医療法人が、
損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こしました。
その内容について、以下の記事が朝日新聞.comで掲載されています。
以下、転載。

 医療機関に過大な負担を強いる現行の消費税法は平等の原則などを定めた憲法に反するとして、兵庫県内の4医療法人が28日、国を相手取り、過去3年分に納めた消費税のうち計4千万円の損害賠償を求める訴えを神戸地裁に起こした。診療報酬に消費税がかからないため、仕入れにかかった消費税分の控除が受けられないとの主張。この問題については日本医師会なども国に是正を求めてきたが、違法性を問う訴訟は初という。

 原告は県内の243の私立病院などでなる「兵庫県民間病院協会」に所属する。訴状によると、医療機関は診療のために必要な設備や薬剤を仕入れる際に消費税を支払っているのに対し、売り上げにあたる診療報酬には消費税が非課税であるため、仕入税額控除を受けられない。

 このため、本来負担すべきでない税を負担する結果となり、「経営が著しく圧迫されている」と主張。合理的な理由がなく他の事業者に比べて税負担が課されていることは憲法の平等原則などに反すると指摘している。

 原告側代理人によると、仕入税額控除を受けられないことによる医療機関の負担額は私立病院で平均5100万円(2005年度)になるとの調査結果もあるという。

 提訴後に会見した吉田耕造同協会会長は「診療報酬と消費税の問題が解消されずに増税が実現すれば、医療機関は崩壊してしまうという危機感から訴訟に踏み切った」と話した。

 これに対し厚生労働省医政局総務課は、消費税導入時(1989年)と消費税率引き上げ時(97年)に診療報酬を上げていることを踏まえ、「改定時に消費税の病院負担分を盛り込んでおり、現時点で問題はないと考えている」との見解を示した。


この記事を読んで、私は何か違和感を感じました。
何に違和感を感じたのかいろいろ考えてみた結果、
この訴訟が何を問題視しているのか?と言うことです。

考えられるのは2つ。
1つめは、消費税法自体に問題がある、とする考え方。
2つめは、税負担の転嫁に問題がある、とする考え方。

普通に考えると2つめを問題視しているように思えるのですが、
「現行の消費税法は平等の原則などを定めた憲法に反する」となっており、
1つめを問題視しているようです。

この記事だけでは分からなかったので、他の記事を検索したところ、
神戸新聞のweb記事で、より詳細に記載されていました。
以下、一部転載。

 こうした現状の理由として、原告側は「仕入れ時の税額控除が認められない上、収入となる診療報酬は国が一律に定めるため、消費税分を上乗せできないことが経営を圧迫している」と指摘。現行でも自動車など輸出商品の仕入れにかかった消費税は還付されることから、「憲法の平等原則に反する」などとして、同様の制度への変更を求めている。

 消費税は1989年の導入時から、国が社会政策的な配慮から診療報酬を非課税にしている。厚生労働省は導入時と、97年に税率が5%に変更された際、合わせて1・53%引き上げる診療報酬の改定を実施。これが消費税分の"手当て"という立場をとり、問題はないという姿勢を貫く。

 これに対し、原告の各法人は「病院によって診療科目の違いや規模の差があるにもかかわらず、一律改定するのはずさんで現実と隔たりがある」と主張。さらに「これまでの改定率では、消費税の負担分をカバーできていない」とする。

 日医の調査では、仕入れ時の消費税負担は05年度、私立病院で診療報酬の平均2・2%、自治体病院で同2・8%に相当し、改定分の1・53%を上回っているという。日医はこれらを根拠に今年9月1日、仕入れ時の税額控除が可能な制度に改めるよう、来年度の税制改正へ向けた要望項目を発表した。

 医療機関の経営悪化は、患者への医療サービス低下にもつながりかねない。税負担のあり方を変えるべきなのか。現行制度下で経営改善の余地はあるのか。法廷での議論が注目される。


つまり「税負担の転嫁」という問題が発生しているが、
その根源は現行の消費税法そのものにあり、現行の消費税法自体が問題だ、という主張です。

比較対象として、自動車産業の輸出を例に出しています。
いわゆる「輸出免税」です。

なぜ輸出は免税なのか?と言うと、皆さんお分かりの通り最終消費が国外だからです。
国外での消費については、それぞれの国の消費税(VAT=付加価値税)の対象になります。
また輸入については、輸入元が国外の販売者に代わって消費税を日本に納付します。
このように輸出免税については、特に整合性に問題がないように思えます。

では、非課税取引はどうでしょうか?
非課税と言うと、なんとなく最終消費者は消費税を全く負担していないように感じます。
しかしながら実際には、ある程度の負担をしています。
詳細は省略しますが、最終消費者の「直接の購入相手である事業者」の利益に対する消費税は負担しませんが、その事業者が負担した消費税(仕入等にかかった消費税=多段階において転嫁された消費税の累計額)は、その商品等の原価として負担することになります。
簡単に言えば、最終販売者が上乗せする利益の消費税分だけしか、負担は軽くならない仕組みです。

つまり消費税法においては、輸出免税と非課税は、
輸出免税=最終消費者は国外なので、消費税は最終的には還付によりゼロ。
     (多段階における消費税は、すべての段階で税額控除or還付される)
非課税=最終販売者が仕入等において払った消費税を、原価として消費者に転嫁する。
     (事業者間における最終の取引までに累積された消費税は、国に納付される)

と言うように区別されます。
このように見ると、どちらの制度でも事業者は消費税は負担しません。理屈上は。
(そもそも、消費税は最終消費者が負担するべきものなので、当然ですが。
 また転嫁は予定されているものであって、保障されているのもではありません)

この訴訟では、医療法人が、
「収入となる診療報酬は国が一律に定めるため、消費税分を上乗せできないことが経営を圧迫している」
としています。
では、医療法人以外では、どうでしょうか。

A社 ⇒ B社 ⇒ C社の順で、商品の販売(消費税5%)があったとします。 
AはBに1,050円で販売、BはCに2,100円で販売(粗利1,000円、消費税納付50円)とします。
ここで、消費税率が10%になったとします。
単純に税率だけの変更であれば、
AはBに1,100円で販売、BはCに2,200円で販売(粗利1,000円、消費税納付100円)となります。
B社の粗利は、変わりません。

ここでC社が、「消費税が10%になっても、2,100円じゃないと取引しない!」と言ったらどうでしう?
AはBに1,100円で販売、BはCに2,100円で販売(粗利910円、消費税納付190円)となります。
B社の粗利は、90円減少してしまいます。
B社の選択は2つです。
粗利が減少しても取引を続ける or 粗利を確保できる他の取引先を探す
零細・小規模な事業者ほど、損をしなければならないことになります。

これは消費税の損税問題と言われるものです。
益税問題は有名ですが、この損税問題も以前から存在はしています。
値引き要求の部分が「消費税部分なのか粗利部分なのか」を区別することはできませんが、
消費税率アップの際には、このようなケースは多々あると考えられます。
「消費税部分を値引きして!」と言う交渉は、安易かつ容易に可能と考えれます。
(国も便乗値上げには注意喚起しますが、便乗値下げは大きく取り上げません)

このように医療法人(非課税売上の多い事業)以外でも、
消費税部分の負担を強いられている事業者は存在しています。

この訴訟に戻ってみましょう。
輸出免税との比較で憲法違反と言っていますが、
輸出免税は、最終消費が国外という大儀名文があります。
また、輸出免税取引・課税取引・非課税取引の全ては、本来の制度の趣旨から考えると、
事業者は消費税あるいは原価という形で、自ら払った消費税を消費者に転嫁することになっています。(あくまで『予定されている』に過ぎませんが)

となると、
現行の消費税法を明らかに憲法違反であると司法が判断するとは思えません
(あくまで『個人的見解』です!)
もしも違憲であるとされたならば、もっと多くの問題点が浮き上がるのは容易に想像できます。

もちろん、この訴訟も弁護士がついて、充分かつ慎重に検討された上と思います。
私ごときでは、考えも及ばない勝算があるのかもしれません。
また消費税法の違法性を問えなくても、『消費税負担の転嫁』という問題点に戻れば、
国(厚生労働省)に『診療報酬』上での改善をもとめる圧力には、なるかも知れません。

何はともあれ、この訴訟。
訴訟自体のみならず、診療報酬(調剤や介護含めて)の改定や、国会での消費税増税論議等も含めて、今後の動きを注視したいと思います。


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